土地には6つの価格がある?それぞれの違いや目的を説明
前回、固定資産税について書いた際に、「固定資産税評価額」について取り上げました。
固定資産税評価額は、字から想像できるとおり、土地や家屋などの固定資産にかかる税金を算出する際の、基準となる価格のことです。
ここでいきなりですが、土地には、他にも複数の価格が存在することをご存じでしょうか?
「固定資産税評価額」の他には、
「実勢価格」
「公示価格(公示地価)」
「基準地価」
「路線価」
「鑑定評価額」
全部で6つです。
土地の『一物六価(いちぶつろっか)』とも呼ばれるこれらについて、各々がどう違ってどう使い分けるのかを今回まとめてみたいと思います。
一物一価の意味
ところでなぜ「一物六価」と呼ばれるかの前に、まず「一物一価(いちぶついっか)」について説明します。
「一物一価」とは、経済学における基本的な考えである「一物一価の法則」で成立する、物やサービスの価格です。
この法則は、「自由な市場経済において同一の市場の同一時点における同一の商品は同一の価格であるが成り立つ」という経済法則になります。
言い回しがくどすぎて私は最初意味が分からなかったのですが・・・例えば、
全く同じ品質の商品が、A国では1万円、B国では5千円で販売されているとします。
とすると、売値の安いB国でその商品を買ってA国で売る、という裁定取引(価格差を利用して利益をあげること)をする動きが当然出てくるでしょう。
そうなると、A国ではその商品の供給が増えるため、A国での価格は下落することになります。
反対に、B国ではその商品の供給が減り、B国での価格は上昇することになります。
これは、A国B国の間で需給のバランスが均衡になるまで続き、結果、両国の価格に差異が無くなるまでに落ち着きます。
つまり、同じ品質の商品が同じ市場で最初は異なる価格で販売されても、 需給の変動に応じて価格も変動し、やがて市場全体の需給量が一致した点で市場均衡価格が成立する、という。
ものすごくざっくりした説明になりましたが、このように市場経済において価格が一つに決まる仕組みを、「一物一価の法則」といいます。
※この法則は、経済主体同士の裁定取引に何の障害も生じない、完全競争市場を仮定としています。完全競争とは、売り手の数が十分に多くて相互に競争しており、買い手は市場に提供される商品の品質や価格について完全な知識をもっている状態をいいます。
土地は『一物六価』
このように、1つの物に対して1つの価格がつくのであれば「一物一価」になりますが、土地においてはそうではありません。
土地こそ、ひとつとして同じものが存在しない唯一無二の代表のようなものなのに、不思議ですよね。
でも、前述したように、1つの土地には「固定資産税評価額」「実勢価格」「公示価格(公示地価)」「基準地価」「路線価」「鑑定評価額」と、6つの価格があるのです。
同じ土地なのに色々な種類の価格が設定されている理由。
それは、それぞれ利用目的などが異なるからです。
個々の価格について以下に説明します。
・固定資産税評価額
固定資産税評価額は、土地や家屋などの固定資産に課される税金を算出する際の、基準となる価格をいいます。
総務大臣が定めた固定資産評価基準に基づいて、各市町村(東京23区は東京都)がひとつひとつの固定資産を確認し、決定している評価額です。
評価方法については、土地の場合、地目別に売買実例価格を基礎として計算しています。(宅地については、「地価公示価格の7割」を目途に計算)
建物の場合は、現在の建物を全く同じ材料と構造で建て直した際にかかる費用を算出して評価する方式(再建築価格方式)を利用して計算されます。
固定資産税評価額は土地や家屋を個別に評価するため、土地であれば、立地や面積や形状、接面道路状況などよってそれぞれ評価額は違ってきます。
建物の場合は、規模や構造、築年数なども評価額に影響します。
尚、土地や家屋の固定資産税評価額は、資産価格の変動に対応し、評価額を適正で均衡のとれた価格にするため、3年に一度、見直し(評価替え)があります。
・実勢価格
実勢価格とは、実際の市場で不動産が売買される価格のことをいいます。
実勢価格は取引が成立した時に初めて確定するものなので、取引成立まで正確には予測できません。
ですので、例えば現在販売中の物件について。
広告チラシや不動産ポータルサイトなどには不動産の概要とともに販売価格が表示されていますが、これはあくまで売出価格であって、厳密には実勢価格ではないのでご注意ください。
売買成立価格=実勢価格となる性質上、需要と供給の実態を最もリアルに表していると考えられることで、実勢価格は、いわゆる「時価」とも呼ばれます。
また、実勢価格は最終的には売買する当事者間の合意が成り立つ価格で決まりますが、売主買主各々の事情や動機等の要因により、不動産の客観的な価値よりも高くなったり、逆に低くなったりする側面も当然持ち合わせます。
加えて、土地は同じ地域、同じ面積であっても、その形状や方角、接道状況などひとつひとつ条件が異なります。
実勢価格は、売買当事者の事情の他、こうした土地の固有条件も加わって決定されます。
・公示価格(公示地価)
公示価格(公示地価)とは、適正な地価の形成に役立てるために、国土交通省土地鑑定委員会が毎年3月中旬~下旬頃に公表している土地の価格です。
地価公示法に基づいて、全国の分科会に属する鑑定評価員(不動産鑑定士)が、その年の1月1日時点の全国の標準地1平米当たりの正常な価格を判定しています。
令和5年地価公示では、全国約2万6,000地点で実施されました。
毎年定められた場所の価格が公表されるので、地価の変動が分かりやすく、一般的な土地取引の際の指標や、公共用地取得時の価格の算定規準となる価格として活用されています。
公示価格を判定する際は、土地が建物の敷地である場合はその建物が無い更地として、また、土地を使用する上での事情や制限などがある場合は、それらが無いものとして扱います。
何故なら、土地上にある建物の築年数や建築費用の違いといった様々な特徴や制限が反映されては、土地本来の価値を示すことができないからです。
実勢価格の場合は前述のとおり取引の当事者による様々な事情や動機に左右されがちですが、公示価格はそういった要因も排除した、自由な取引において通常成立すると考えられる1平米当たりの価格を示しています。
・基準地価
基準地価とは、国土利用計画法に基づき、都道府県がその年の7月1日時点における基準地1平米当たりの価格を判定するもので、毎年9月下旬頃に公表されます。
一般的な土地取引の他に、地方公共団体や民間企業の土地取引の目安として活用され、「都道府県調査地価」とも呼ばれます。
先の「公示価格」と評価方法や内容などが似ていますが、主に次のような違いがあります。
【評価時点】
公示価格:毎年1月1日時点
基準地価:毎年7月1日時点
公示価格:3月中旬~下旬頃
基準地価:9月下旬頃
【基づく法律】
公示価格:地価公示法
基準地価:国土利用計画法
【実施機関】
公示価格:国(国土交通省土地鑑定委員会)
基準地価:都道府県
【価格の決め方】
公示価格:1地点につき不動産鑑定士2名以上による鑑定評価をもとに決める
基準地価:1地点につき不動産鑑定士1名以上による鑑定評価をもとに決める
【調査地点】
公示価格:「標準地」1平米当たりの価格
基準地価:「基準地」1平米当たりの価格
【対象地域】
公示価格:主に、都市計画区域内
基準地価:都市計画区域内の他、都市計画区域外も対象
公示価格が都市部を中心に調査を行っているのに対して、基準地価は各都道府県内の全域を対象にしており、基準地価は公示価格でカバーしきれないエリアの地価を調べることで公示価格を補助しています。
また、評価時点が半年違うことから、基準地価はその年半ばの地価動向がわかる指標ともなっています。
・路線価
路線価とは、国税庁が毎年7月に公表する、その年の1月1日時点における主要な道路に面した標準的な土地1平米当たりの評価額です。
土地の価格が、その土地が面している道路(路線)ごとに設定されているので「路線価」といい、相続税や贈与税に関わる土地の評価額を算出する際に活用されます。
同じように公的機関が公表している公示地価や基準地価に比べて、路線価の調査地点は約13倍(約33万6000)と、圧倒的に多いのが特徴です。
また、公示価格や基準地価は調査地点に指定された土地そのものをひとつひとつ鑑定して価格を決めていますが、路線価の場合は、「この道路に接している土地は○万円」といった基準で、大まかに金額を割り振っています。
道路に価値の基準を設定することで、調査地点に指定されていなくても、面積さえわかれば個別の土地価格を自分で計算できるようになっているのがポイントです。
ちなみに今説明した国税庁が公表している路線価を、「相続税路線価」と呼びます。
単に「路線価」と言った場合は、この相続税路線価を指すことが多いです。
そして、市町村(東京都の場合は都)が固定資産税等を算出する際に基とする路線価は、「固定資産税路線価」と呼ばれます。
どちらも公示価格(公示地価)と連動していて、相続税路線価は公示地価の80%程度、固定資産税路線価は公示地価の70%程度となっています。
尚、毎年ニュースなどで取り上げられるので有名ですが、日本で一番路線価が高いのは、2023年現在「東京都中央区銀座5丁目」(鳩居堂前)となります。
38年連続で最高で、1平米当たり4,272万円ですって。すごい金額ですよね!
・鑑定評価額
鑑定評価額とは、不動産鑑定士が不動産鑑定の法律である不動産鑑定評価基準に基づいて算出する不動産の価格です。
相続税評価、固定資産税評価、地価公示、都道府県地価調査など、公的土地評価の基礎とするための価額です。
このため、実勢価格のときのように不動産売買時の主観的な事情を排除し、周辺の取引事例やその不動産の利用価値、賃貸した場合の収益性などの経済価値のみを検証して客観的に価額が決められています。
不動産鑑定士の鑑定は適正な評価額が公的に求められる場合に依頼されることが多く、もちろん土地や建物の規模などにより変動しますが、一般的な住宅であればおよそ20万~30万円が費用相場といわれています。
鑑定後は評価書が発行され、公平な評価額として関係者に示すことが可能です。
まとめ
土地の六価とされる、「固定資産税評価額」「実勢価格」「公示価格(公示地価)」「基準地価」「路線価」「鑑定評価額」、これらの違いなどを簡単に説明してみました。
ちなみに、一物六価から基準地価と鑑定評価額を除いた4つで「一物四価」、または鑑定評価額を除いた5つで「一物五価」ともいわれます。
いずれにしても土地には複数の価格が存在し、それを決める主体や算出方法が異なります。
ややこしいから1個にまとめてよ!と言いたいところですが、それぞれの価格にはそれぞれ適した利用場面や意味があるため仕方がないことなのですね。
これから先、人生のどこかしらでこれらいずれかの価格が関わってくる可能性は、誰しもあるものです。
一番可能性が高いのは、不動産の売買時や相続時でしょうか。
それぞれの違いをある程度知っておくと、不動産の購入時に価格が適正なのか考えられるようになったり、相続時の納税額計算をスムーズに進められるようになって便利だと思います(*^_^*)