空家対策特別措置法の改正について
先週のことになりますが、令和5年12月13日に、「空家等対策の推進に関する特別措置法」の改正法が施行されました。
「空家等対策の推進に関する特別措置法」とは、適切に管理されていない空家等について、その状態を是正するための措置を定めた法律で、8年前(平成27年/2015年)に全面施行となった法律です。
今回の改正は、その8年前に施行された空家対策特別措置法の、更なる強化を目的に行われたものです。
空家を所有している方は、特に注意が必要です!
※「空家対策特別措置法」「空家特措法」「空き家法」とも呼ばれていますが、ここでは「空家対策特別措置法」で統一します
法改正に至る背景
まず前提として、この法律で出てくる「空家等」の定義は、次を指します。
『建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。』(法2条1項)
従来の空家対策特別措置法では、この「空家等」のうち、
①倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
②著しく衛生上有害となるおそれのある状態
③適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
④その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
に該当するものを「特定空家等」と指定し、立木伐採や住宅の除却などの助言・指導・勧告・命令をしたり、行政代執行(強制執行)を行うことが可能としていました。
もっと詳しくはこちら→「空家対策特別措置法」空き家を放置するとどうなる?」
しかし、「特定空家等」と指定されてからの対応では限界を迎えつつありました。
使用目的の無い空家はこの20年で約1.9倍に増加、このままでは更に増加する見込みがあるということで、今後は、「特定空家等になる前」に予防的措置を講じられるようにすべきとの考えから、この度の法改正に至ったのです。
3本柱で対応を強化!
改正法では、
・近隣に悪影響を及ぼす前の段階で有効活用や適切な管理を強化すること
・問題のある空家の除却をさらに促進させること
を目的としています。
これにより、「空家の活用拡大」「空家管理の確保」「特定空家の除却等」を3本柱として対応を強化していくこととなります。
次に、各柱の詳細を説明します。
①空家の活用拡大
■空家活用の重点的実施
改正法では、「空家等活用促進区域」が創設されました。
市区町村が区域や活用指針等を定めて、区域内の空家を対象に、建築基準法等で定められている接道や用途の規制を緩和できるようになったのです。
例えば、前面に接する道が幅員4メートル未満でも、安全確保策を前提に建替えや改築等ができるよう特例認定されたり、各用途地域で制限された用途でも指針に定めた用途への変更が特例許可されたり・・・
これまで、各規制が障壁となって活用が難しかった空家も、活用促進への道が拓けることとなります。
■所有者不在の空家の処分
所有者に代わって処分を行う財産管理人の選任を、市区町村が裁判所に請求できるようになりました。
■自治体や所有者等へのサポート体制
また、空家の管理や活用に取り組むNPO法人や社団法人を「空家等管理活用支援法人」として、市町村が指定することが可能となりました。
これにより、空家対策事業に関わる知識不足・人員不足などの解消が期待されています。
②空家管理の確保
■特定空家化の未然防止
改正法では、前述した従来法上の「特定空家等」の前段階(放置すれば特定空家等になるおそれがある空家等)に相当する、「管理不全空家」が設定されることとなります。
「管理不全空家」として勧告を受けた空家の所有者・管理者は、国の指導を受けながら、管理指針に即した措置を行わなければいけません。
例えば、定期的に換気や通水、庭木伐採等を行うなどの管理ができない場合は、空家等管理活用支援法人等に管理を委託することなどが求められる予定です。
行政が早期介入することで空家の所有者等に管理を促し、周囲へ悪影響を及ぼす特定空家化を未然に防ぐことが目的です。
注目点として、従来は「特定空家等」のみが対象だった住宅用地の課税標準の軽減特例(※)の解除が、改正法では「管理不全空家等」も対象になりましたので注意が必要です。
(※)住宅用地と認められた土地で、住宅1戸当たり200平米までの土地は「小規模宅地」として、課税標準=固定資産税評価額が1/6に軽減されるという特例
■管理不全建物管理制度の活用
所有者に代わって建物管理を行う「管理不全建物管理人」の選任を、市区町村が裁判所に請求できるようになりました。
■所有者把握の円滑化
電力会社等にある所有者情報を、市区町村が提供要請できるようになりました。
③特定空家の除却等
■代執行の円滑化(緊急代執行制度の創設)
従来法では、特定空家等を行政が代執行により管理・処分する際には、手続きや費用の回収に時間的猶予が設けられるシステムでした。
このため、迅速な対応が必要な緊急時にも同様の手続きが必要となり、倒壊の危険がある建物や災害時などの安全確保の障壁となっていましたが、法改正により所有者への勧告や命令といったプロセスの円滑化が進められます。
改正法では、市区町村長に特定空家等の所有者に対する報告徴収権を付与し、これにより、命令等の手続きを省略した代執行が可能となりました。
また、空家の解体費用の徴収に関しても対策が講じられ、略式代執行時や緊急代執行時においても、国税滞納処分の例により、所有者の財産から強制的に費用を徴収することが可能となりました。
■相続放棄、所有者不明・不在の空家への対応
相続放棄や所有者不明等により管理不全空家、特定空家等となった建物に対し、市区町村が裁判所に「財産管理人」の選任を請求し、修繕や処分を実施できるようになりました。
まとめ
町を歩いていると、老朽化が激しく倒壊してもおかしくないような空家をたまに見かけます。
また、管理の手が入っておらず、庭の草木がとんでもない高さまで生い茂って、隣家を侵略しようとしている空家も。
周辺住民にとって、景観面ではもちろん、衛生面や防災面、防犯面などの問題を起こしたりする可能性があるのでとても心配ですよね。
この度の法改正で、特定空家等だけではなく管理不全空家に対しても行政による改善の指導や勧告が実施できるようになったばかりでなく、固定資産税の住宅用地特例の解除も可能となりました。
住宅さえ建っていれば固定資産税の減額を受けることができるという考えで、あえて費用をかけて解体したりせずに放置する事例が多いからです。
しかし今後は、適切な管理しておかなければ固定資産税の減額が受けられなくなってしまう可能性が高くなりました。
しばらく所有する必要があるという場合は適切な管理を、もう使用する予定が無いという場合は早めに売却等の決断に踏み切るなど、空家と真剣に向き合うことを考えなければなりません。
※本ページは2023年12月時点での情報です。今後予告なしに変更される場合があります