任意売却とは?仕組みや競売と比較したメリット
多くの人は住まいを購入するときに、銀行などの金融機関から貸付金を受けて購入し、その返却を住宅ローンによる月々の支払いで充てます。
そしてほとんどの場合、その金融機関は住宅ローンの対象となった不動産(土地や建物)を担保とし、「抵当権」を設定します。
※抵当権…住宅ローンを組んだ人(債務者)が返済不能に陥った場合に、金融機関(債権者)によって行使される権利
住宅ローンの完済までには長い年月を要します。
その間に、失業、倒産、事業の縮小による収入減、離婚、家族の疾病や介護による支出など、様々な状況の変化で返済が厳しくなってしまうこともあるでしょう。
返済の見込みが無いと判断したら、金融機関は前述の抵当権を行使し担保となっている不動産を差し押さえ、裁判所を通じて強制的に不動産の売却を進めます。
これが不動産の「競売」で、競売にかけることで不動産を現金化し、それにより優先的に住宅ローン残債に充当させるのです。
では、住宅ローンの支払いが困難になったら、諦念して競売に進むしか道は残されていないのか?といえば、そうではありません。
競売を回避する手段として、「任意売却」という方法があります。
ただし、住宅ローンを滞納後、任意売却ができる期間にはタイムリミットがあります。
任意売却で受けられるメリットを最大限享受するためにも、仕組みや流れをきちんと理解して、少しでも早い時期に実行されることが重要です。
任意売却とは
住宅ローンの滞納が3~6ヶ月連続して続くと、債権者(住宅ローンの融資元である金融機関)は少しでも住宅ローンを回収するために、抵当権が設定された不動産を差し押さえて競売を実行します。
任意売却は、住宅ローンの支払いが困難になった場合に、債権者の同意を得て、抵当権が設定された不動産を競売によらないで売却する方法のことをいいます。
競売と比較して、任意売却がなぜ良いのか
★市場価格に近い価格で売却ができる
任意売却後も債務が残るため、引き続き債務の返済は必要となりますが、競売による売却(競売では市場価格の7割前後の売却価格が一般的)よりも債権者に多く返済でき、その後の生活再建に繋げることができます。
★競売物件のようにプライバシーに関する内情が露呈する心配が無い
競売のように周囲に「ローン滞納による売却」と推測されることなく、一般市場に出回る通常の売却物件の扱いと同様の販売方法となります。
★売却にあたってお金の持ち出しが必要無い
通常、不動産を売却する際には、売買価格の3~5%程度の諸経費がかかります。費用がかかるのは任意売却も変わりませんが、任意売却の場合は売却代金から諸経費を支払うことが認められています。
★ある程度スケジュールの融通が利く
競売の進行スケジュールは全て裁判所が一方的に決定しますが、任意売却は通常の不動産売却と同じ手順で進むため、期限の範囲内であればスケジュールの調整が可能です。
★引越し費用や残置物撤去費用などを債権者に交渉し、認めてもらえるケースが多い
債権者との交渉次第では、引越し費用や残置物撤去費用などを売却代金から確保できることがあります。
★残債務について柔軟な返済処理ができる
今までと同じ条件での支払いが難しいことは債権者も充分に理解しているため、債務者の収入状況などを考慮し、先々の生活に支障をきたさない返済額が認めてもらえます。
★売却後も住み続けることが可能になるケースもある
収入面などの一定の条件をクリアする必要はありますが、身内の方や投資家に自宅を買い取ってもらい、同時に新たな所有者と賃貸借契約を締結し家賃を支払うことでそのまま自宅に住み続けられる場合もあります。(リースバック、家族間売買、親族間売買)
任意売却の注意点
●債権者の同意を得ないと売り出せない
通常、抵当権はローンを完済しなければ解除することはできませんが、任意売却は売却益をもってしても住宅ローン全額返済ができない状況下(オーバーローン)で、債権者側に抵当権の抹消をしてもらい売却する方法です。
このため、任意売却を行う際には、対象不動産について抵当権を有する金融機関、すなわち債権者側の同意が絶対的に必要で、同意が得られない場合は任意売却はできません。
●売却完了までの時間に限りがある
任意売却と同時に債権者は競売の手続きを進めていきます。
一般的には競売の開札期日の前日までに任意売却が完了していないと、競売の取下げができません。
●信用情報機関のブラックリストに載る
任意売却をしたから載る、というわけではありませんが、ローンの返済が一定期間滞った時点で、信用情報機関は延滞した人を「事故情報」「延滞情報」として登録します。(この状態を「ブラックリストに載る」と表現します)
この場合、5~10年間はローンを組んだりクレジットカード新しく発行することはできません。
※ただし、これは競売となった場合でも同様です
任意売却できるのはいつまで?
競売は、開札期日を迎えてしまうと取り下げができません。
競売を取り下げられる最終期限は、「開札期日の前日」までです。
【競売開始決定前に任意売却する場合】
ローンの滞納を重ねると、間もなく競売になることは避けられません。
ですが、競売の開始決定前に任意売却を債権者に交渉することで開始決定を猶予(金融機関や保証会社によって異なりますが、約2~6ヶ月)してもらえるケースは多いです。
この猶予期間中に購入者が見つかり任意売却が成立すれば、競売を申し立てられずに済みます。
【競売開始決定後に任意売却する場合】
競売開始決定後でも、債権者の同意を得られれば任意売却は可能です。
ただし、一度開始決定がなされると途中で止められることはなく、競売と任意売却を同時並行で進むこととなります。
このため、競売開始決定後に任意売却をする場合、競売の開札期日の前日までに引渡しをして売却代金で返済をする必要があり、それまでに成立しなかった場合はそのまま競売物件として落札されてしまいます。
すでに競売の手続きが進んでしまっている状態の場合は、残された時間が少なくなっているいうことです。
次に、ローン滞納から競売完了までのおおよその流れを書きます。
ローン滞納から競売完了までの流れ
~競売開始前~
●督促状・催告書が届く
住宅ローンの滞納の初期段階では比較的やわらかい印象の電話やハガキでの督促だったものが、滞納を重ねるにつれて厳しい内容の督促状や催告書が届くようになります。
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●期限の利益喪失
滞納3~6ヶ月目ほどで、「債務(住宅ローン)を分割して返済する権利」を失います。
つまり、住宅ローン残高を従来の分割払いではなく一括払いしなければならなくなるということですが、この期限の利益喪失から約1ヶ月以内に、金融機関より「期日までに住宅ローンを一括払いするよう」通知が届きます。
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●保証会社が代位弁済を行う
一括払いの返済期日を過ぎてしまうと、保証会社が滞納者に代わって金融機関に対してローンを一括返済し(「代位弁済」)、窓口が金融機関から保証会社へ移ります。
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●競売申し立て
代位弁済が実行された後、窓口となった保証会社に一括返済できなければ、保証会社は裁判所へ競売を申し立てます。
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●競売開始決定
競売申し立て後、数週間で「競売開始決定通知」が届き、競売へと進んでいきます。
~競売開始後~
●現況調査・競売資料の作成
「競売開始決定通知」が届いてから間もなくして「現況調査に関する通知」が届きます。
競売を進めるにあたり不動産の価値を調査するために、指定の日時に裁判所の執行官と不動産鑑定士が自宅を訪ね、室内の状況を確認したり写真を撮影する、という内容です。
※この時に訪問に応じない場合、執行官が同行させた鍵屋が強制的に鍵を開錠し、後で解錠費用を上乗せして請求されるため、できる限り立会うにしましょう。
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●売却基準価格の決定
現況調査から約1~2ヶ月後に、裁判所に売却基準価額(裁判所が設定する競売不動産の入札基準となる価格)や家の状況や写真が記載された「評価書」が備えられます。
※この段階では、本人や利害関係者のみが評価書を閲覧できます
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●期間入札の通知が届く
「期間入札の通知」とは、入札期間・開札期日・売却決定期日・売却基準価格など、具体的な競売の内容を記した通知です。
・入札期間…入札公告をしてから実際の入札が行われるまでの期間
・開札期日:入札期間経過後、その入札結果を発表する日
※任意売却により競売を取り下げられる最終期限は、この開札期日の「前日」までです
・売却決定期日…裁判所が最高価買受申出人(または買受申出人)に対し、不動産の売却を許可するか否かを審査し、その結果について決定という裁判を行う期日
この通知が届くと、『競売完了へのカウントダウンが始まった』ということを意味しています。
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●入札開始~開札~売却許可決定
通常、裁判所は1週間以上~1ヶ月以内という期間で、競売の入札期間を決定します。
入札期間の終了日から1週間後の開札期日に入札参加者立会いの元で開封を行い、最高価買受申出人(競売で最も高い金額で入札し、執行官から最高価買受申出人と定められた人)が定まります。
続いて、裁判所が最高価買受申出人に対し、欠落事由の有無などを慎重に審査した上で売却許可決定が確定となります。
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●買受人が代金を納付する
売却許可決定が確定されると買受人となった方に代金の納付通知が届き、買受人は代金を裁判所に納付します。
※債権者はこの代金から住宅ローンを回収します
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●所有権移転
買受人の代金納付の期限は通常、約1ヶ月です。
代金が納付されると裁判所は登記所に所有権移転登記を嘱託し、手続きが完了した時点で、競売物件は新たな所有者(買受人)の資産となります。
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●その後
競売物件の所有権移転が完了すると債務者は所有権を失い、物件から立ち退かなければなりません。
買受人は代金納付の日から6ヶ月以内に裁判所に「引渡命令の申立て」をすることができるため、もし立ち退きを拒んだ場合は、買受人は以下のような流れで法的手段を行使して強制的に物件の引渡しをさせることになります。
■買受人が裁判所へ引渡命令を申立てる
↓(法律的な問題や書類上の不備がなければ、申立て後3~4日)
■裁判所において「不動産引渡命令」の決定が下りる
↓(尚も引き渡しを拒んだ場合)
■買受人が不動産明渡しの強制執行を裁判所へ申立てる
↓(明渡しの催告)
■明渡しの断行【強制執行】
早めの決断が鍵となります
任意売却は通常の不動産売却と比較して、銀行や役所との交渉や利害関係者間の調整等、着手すべき折衝ごとがどうしても多くなります。
これらは任意売却を行う私ども不動産業者が行いますが、いずれにしても任意売却にはタイムリミットがあるため、時間との勝負でもあります。
折衝や売却活動に充分に時間をかけ理想的な結果を獲得するためにも、可能な限り早い段階で任意売却への決断をされご相談ください。
まとめ
債務者にとって、競売に進むことで良い点など正直いってひとつもありません。
なにより、任意売却は裁判所主体で強制的に進んでいく競売と違い、価格面ではもちろん、プライバシー性が保たれ自身の意志が反映できる余地もあるという点は、何にも代え難いです。
なにも好き好んでローンを滞納する人は少ないと思います。
ローンを組む時には予測もできなかった事情が人生で起こり、結果、返済が苦しくなってしまった方がほとんどだと思います。
そんな時にはどうか、任意売却という方法があることを思い出してください。
焦燥や不安に押し潰されそうな日を重ねることは、とても孤独で苦しいものです。
少しでも早くそんな日々から解放されることを願います。